人は、真剣に物事に取り組むと、その取り組んだことが、好きであるかのような錯覚を起こします。
私にとっての野球もそうでした。
実力を伴わない、「好き」ほど厄介なものはありません。
確かに、好きであれば、練習を楽しんでするようになるので、実力は伸びますが、周りも同じように野球を愛しています。
私の即席の「好き」では、周りの皆の実力に、到底かないませんでした。
始めての成長の実感
それでも継続して「好き」でいると、それなりの実績が生まれるものです。
こんな私も、小学5年生の終わりにターニングポイントを迎えます。
この時の私は、相変わらずB軍のベンチでしたが、頑張っているという評価はされていました。
一方、タケシ君とマサル君は、A軍でレギュラーになっています。
タケシ君は、自慢の足を活かして出塁し、マサル君は、持ち前の柔軟性を活かして、先輩をアシストします。
こんないつまでもベンチの自分に対して、苛立ちを隠せずにいると、ある日、B軍の監督から呼び出されます。
B軍の監督
最近、キヨッピヨ、荒れてるな?どうしたんや?
もうすぐ6年になるというのに、僕は、まだ、B軍のベンチです。そんな自分が嫌で、変えたいのに、どうにもならないんです。
B軍の監督
そうか、でも、このままやったら、6年になっても、A軍には、上がられへんぞ。使いもんにならんからな。
B軍の監督にこう言われ、泣きそうになると、監督は、こう続けます。
B軍の監督
ただ、一つだけ枠がある。その枠は、厳しい練習に耐えることができる奴にしか渡されへん枠や。けど、お前がその練習に耐えれるなら、柱的なポジションに一気に格上げや。どうや?挑戦してみるか?
はい、望むところです。僕にその練習をさせてください!?
私は、迷うことなくその枠を引き受けました。
その枠というのは、キャッチャーです。
この頃の私は、デブで、5年生の中で一番身長が高かったので、キャッチャー適正があると思われたのでしょう。
私は、鈍くさくて、ほとんど何もできませんでしたが、ボールを受けることは並程度に出来ました。
この頃、既に、A軍のポジションは、大体決まっていたのですが、キャッチャーだけは、空いていました。
そんな理由で私に声がかかったのです。
ちなみに、ピッチャーは、迷うことなくタケシ君に決定していました。
タケシ君は、5年生とは思えないくらいの豪速球を投げます。
そんな速い球を受けるのに適した体型ということで、私にチャンスが訪れたのです。
キャッチャーになるための猛特訓
まず、私に足りなかったのは、根性です。
もうすぐ小学6年生になるというのに、すぐに涙を流します。
隠していたつもりでしたが、B軍の監督にはお見通しでした。
そんな私の性格を改善するために、砂場に連れていかれます。
そして、キャッチャーの道具であるプロテクターを初めて装着させられ、指導が開始します。
プロテクターを着せられた後、砂場に座らされ、腕を背中の後ろで縛られます。
そして、ボールを投げつけられます。
痛っ!?
私がこう叫ぶと、
B軍の監督
タケシの球は、こんなもんじゃないぞ!?キャッチャーをやってると、もっと速いのが、プロテクターをつけてないところに当たるかもしれへん。お前は、それに耐えられるか?
B軍の監督は、こう言いながら、プロテクター越しの私の胸を目掛けてボールを投げつけてきます。
至近距離で、結構な速さの球を投げつけてくるので、かなり痛かったですが、私は必至で耐えました。
体感、数時間くらい続いたように思えます。
訓練が終わり、監督はこう言います。
B軍の監督
どうや?キャッチャーは、こんなポジションやぞ?それでもやるか?
その時、時計を見ると10分も経っていませんでした。
こんな大変なのかと、少し心が揺らぎましたが、やるしかなかったので、
大丈夫です。続けさせてください!?
私は、こう答えました。
こうして、キャッチャーになるための猛特訓が始まりました。
人間の成長は、いつでも相乗効果
面白いもので、今まで何の取り柄もなかった私も、こうやってキャッチャーになるチャンスを得ると、メキメキと力をつけていきます。
それは、キャッチャーの技術だけではなく、バッティングや走りの速さ、今までできなかったことが、急にできるようになっていきます。
練習が厳しくなって痩せたからかもしれません。
身体が軽く感じるようになります。
成長期に成長しただけの話かもしれません。
しかし、自分の中で一番大きかったのは、自分に自信を持てるようになったということだと思っています。
そのおかげで、積極的に練習に取り組めるようになったのだと思っています。
タケシ君の豪速球を受けるようになると、今まで見えなかった、速い球が見えるようになってきます。
もともと体格が大きかったので、力はありました。
球が見えるようになると、不思議なことに、急に打てるようになるんです。
そうなると一気に強打者の仲間入り。
周りの皆が私の成長っぷりに驚いていたのを覚えています。
そして、私もいよいよ小学6年生になり、A軍のキャッチャーとしてレギュラーに迎え入れられます。
この時は、本当にうれしかった。
しかも、打順は4番です。
タケシ君、マサル君との差を一気に縮められた気がしました。
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